Masako、Hiroko、Sachio〜アナーバーの思い出〜/“坂道”

ミシガン州アナーバー市街

5月29日(水)午前7時35分〜午前9時20分、トワ(永遠)の散歩。

井の頭公園三角広場を半周後、あしはら橋近辺の“間道”を抜け(cf.May26註)、三鷹市武蔵野市の境界を区切る“坂道”(約30m)を上り、平成通り→ジョギング通り→うぐいす小路を歩き回って、三角広場に戻る。この間、1時間余。
そして、広場の木陰とベンチ脇で交互に休むこと約30分。

彼は壮健なり!

[註:“坂道”は私の命名
トワにとって三鷹市側の“間道”⇆武蔵野市側の“坂道”は、勝手知ったる縄張りのうちである。]

★午後2時、gallery&cafe inoで、Masakoと会う。
私がinoを利用するのは、これが2度目。
同店は井の頭公園駅から徒歩4分。駅改札を出て左手、線路沿いに渋谷方面へ→坂を上がって下ったところにある「三鷹台2号踏切」を渡ってすぐ、右側に見える白い壁に黒い塀の、小さなおうちギャラリーカフェ。清々とした、心温まる空間だ。

Masakoと初めて会ったのは、半年ほど前、三角広場→夕やけ橋の近くだった。彼女も私も愛犬を連れての散歩中だった。
やがて同じ散歩中に三角広場で何度か立ち話を交わすにつれて、彼女も私もニューヨークに長期滞在した事実が判明し、それではユックリお茶でも飲みながらニューヨーク体験を語り合おうと相成った次第。

彼女のアメリカ(合衆国)時代は、計13年間に及んでいた。
最初は父親の仕事の関係で、少女時代の7年間をミシガン州のアナーバー(Ann Arbor)で過ごす。
いったん日本に帰国して、今度はニューヨーク州の州都オールバニ(Albany)に3年間住みながら、ニューヨーク州立大学オールバニ校に通う。
そして同大学を卒業後、ニューヨーク市のマンハッタン(Manhattan)に3年間住みながら、日系企業(商社)に勤務する。

・彼女と私は2時間ばかり、過ぎ去った時代の思い出話に興じた。
彼女の場合、ニューヨーク(州・市)時代よりも強く、アナーバー時代への郷愁の念に駆られつづける。
ミシガン大学アナーバー校のキャンパスで、両親に連れられて、あれこれと遊んだこと。
また、市内の随所に存在する公園で、現地の子供たちと仲よく、はしゃぎ回って遊んだこと…。

私もまた、アナーバー体験の思い出をたぐり寄せる。
私はこれまでに、同市を2度訪問している。
1度目は2000年に、私の大学時代の級友Sachioと11年ぶりに会い、またミシガン大学Hiroko教授と初めて会う。
2度目は2010年に、ミシガン州ノバイ(Novi)に在る日本人学校を参観かたがた、ノバイに近接するミシガン大学を再訪する。

         
ミシガン大学アナーバー校 正面門付近広場    
                      

ミシガン大学 セントラルキャンパス

・アナーバーはミシガン大学本部キャンパスが位置することで大変良く知られている。
ミシガン大学(University of Michigan)は、ミシガン州立の研究型総合大学であり、アナーバー校・ディアボーン校・フリント校の3大学から構成される。
そして、アナーバー校はミシガン大学の中核たる旗艦校であり、その評価は公立の大学として最高の部類に属し、俗に「パブリック・アイビー」*1と称される大学の一つとなっている。

・アナーバーは別名「木の町」(Tree Town) と呼ばれるほど、公園や住宅地域には豊富な造林がある。市内には近所の小公園から大きな市営公園、大学の公園まで含めて合計147もの公園がある。

☆私はアナーバー校美術部金工科のHiroko教授に案内され、同校の「セントラル・キャンパス」および「ノース・キャンパス」の要所を見学した。
セントラル・キャンパスはミシガン大学のアナーバーにおける発祥の地であり、由緒ある建物が多い。そして、ノース・キャンパスは近代的な建物(主に工学部と芸術系の学科が使用)が立ち並ぶ、緑に包まれた広大なキャンパスだ。その広大さはさすがにアメリカの大学だけあった。

私は彼女からアナーバー市内の自宅に招かれた。
それはそれは、広壮な邸宅だった。
その門構えもさることながら、建物自体が実に大きく、素晴らしく立派だった。
聞けば、建物面積が1000平方メートル、つまり建坪(地坪)が約300坪とか!
さらに一驚したのは、敷地面積が10000平方メートル、つまり建坪の10倍の約3000坪だったこと!
そこは庭園ならぬ造林地というべきか、静かな森が黒々と浮かび上がる自然界の様相を見せていた。
彼女の住まいこそ、まさにアナーバーの森の中の一軒家(私邸・豪邸)にほかならなかった。

彼女は日本の立教大学を卒業後、アメリカに渡り、アメリカ人男性と結婚→やがてジュエリー・デザイナー(兼ミシガン大学教授)として、コンピューターとレーザーを利用したジュエリーデザインを開拓し、世界的な盛名をはせる。
その彼女を私に紹介してくれたのが同じアナーバーに住むSachioだ。

☆Sachioは大学を卒えてN社に勤務、程なく同期生の女性Kと結婚。ところが数年後、Kは嬰児(長男)と共に神奈川県の茅ケ崎海岸で飛び込み自殺。数日後、二人の遺体を発見…。
残された彼と娘(長女)の人生は、幾多の曲折を経ることになった。

私の記憶の中から、今もって忘れがたい光景が浮き上がってくる。
死者の冥福を祈る通夜の席だった。
Kの母親をはじめとする親戚一同が彼を囲み、涙ながらに罵倒したものだ。
「何でこんなことになってしまったの!あんたがダラシナイからじゃないのか」「お前がダメな男だから、Kちゃんは死んじまったんだ!」…
彼はひたすら嗚咽を押し殺しながら、言葉もなくグッタリとうなだれるばかり…。
毒々しい情念がささくれだつ修羅場だった。

私は後日、真顔で彼に忠告した。
「心機一転、今の住み処を変えるべきだ。どこか知らぬ町へ転居すること。さらに、今のサラリーマンから転職するに越したことはない。それがとても困難なら、せめてN社の支社に転勤すること。思い切って、第二の人生を踏み出すべきだろう!」
その後まもなく、運命に呼び寄せられたのか、彼はNアナーバー社に異動する。

・何のけれんみもないMasakoの話から、私は意外な事実を知って驚愕した。
そもそも彼女がアナーバーの「一住人」となったのは、父親がNアナーバー社に赴任したからだった。どうやら年齢上、彼女の父はSachioの「後輩」に当たるようだ。運命は流転する…。

アナーバー談議だけでも、彼女と私の会話が絶え間なしに続いた。お互いのニューヨーク物語の詳しい展開は、他日に譲ることにした。

*1:「パブリック・アイビー(Public Ivy)」とは、アメリカの公立(パブリック)大学における名門校を指す総称としての通称である。同国東部の名門私立大学の集まりである「アイビーリーグ(Ivy League)」からの派生語である。なお、アイビー・リーグは次(アルファベット順)の8大学で構成されている。ブラウン大学(Brown University)、コロンビア大学 (Columbia University)、コーネル大学(Cornell University)、ダートマス大学 (Dartmouth College)、ハーバード大学 (Harvard University)、プリンストン大学 (Princeton University)、ペンシルベニア大学 (University of Pennsylvania)、イェール大学 (Yale University)。